ZEH住宅って知ってますか?

http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/zeh/

チラシ等の広告では、ZEH住宅という言葉が載っていない広告はないのではないかっていうくらい、業界内ではもはや普遍的な言葉として使われていますが、建築に関わりのない方にとっては、まだまだ聞き慣れない単語だと思います。

ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」です。
ZEH住宅の旗振り役、資源エネルギー庁ではZEH住宅を上記のように定義しています。
この定義でのポイントは3つあります。

1.「外皮の断熱性能等を大幅に向上」 建物の断熱性能を上げましょうってことです。
2.「高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現」 性能のいい最新設備を導入しましょうってことです。
3.「再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとする」 住宅で使う分以上の太陽光パネルを設置しましょうってことです。

これら3つの要素がすべて揃った住宅を、ZEH住宅といいます。
これだけではいまいちよくわからないと思いますので、具体的にどんな家がZEH住宅となるのか、説明をしていきたいと思います。

ZEH住宅の断熱性能

 

地域区分
1 2 3 4 5 6 7
次世代省エネ基準(H25) 0.46 0.46 0.56 0.75 0.87 0.87 0.87
ZEH住宅基準 0.40 0.40 0.40 0.60 0.60 0.60 0.60

この表は次世代省エネ基準(長期優良住宅や前回のエコポイントで使用されている基準)と、ZEH住宅で最低限要求されるUA値(断熱性能)を比較したものです。次世代省エネ基準と比べると、ZEH住宅の基準が厳しくなっていることがわかります。
とはいっても、数字だけでは専門家でなければさっぱりわからないでしょうから、具体的にどのくらい断熱性能が違うのかをモデル住宅を用意して説明します。

 

ZEH住宅モデル平面図
平面図

 

ZEH住宅モデルCG
CG

説明用として、普通にどこかにありそうな家をモデルとして作成してみました。
弊社で建てているものではありません。あくまでも説明用です。(ここ大事!)
大きさは1階2階を併せて床面積32.5坪ほど。ちなみに図面作成所用時間は30分。
営業マンがお絵かきでつくるとこんな感じかなあって建物です。
片流れで太陽光いっぱい載せられるようになっているのが実にZEH住宅っぽい感じです。

さて、このモデル住宅を使用して、実際に断熱性能を計算してみました。
計算に使用した断熱材はグラスウールで、下記のような構成です。
この数値は水戸市近辺(省エネ区分5地域)における、次世代省エネ基準住宅の基準となる数値です。エコポイントの時は断熱計算をしていなくても、下記の断熱材を使用していればエコポイント住宅証明書が発行されました。

断熱箇所 断熱材料 断熱厚さ(㎜) 熱抵抗値(m²・K/W) 熱貫流率(W/m²・K)
グラスウール10K 100 2.2 0.50
天井 グラスウール10K 200 4.0 0.34
グラスウール16K 80 2.2 0.45

熱貫流率4.65W/(m²・K)のアルミサッシ複層ガラス(少し前まで主流だったガラスサッシ)を組み合わせた数字がこちらになります。

ZEH住宅断熱計算表1

計算した結果、出てきた数値がUA値0.85W/(㎡・K)。次世代省エネ基準が0.87W/(㎡・K)ですから、近い数値になることがわかります。
なお、ソフトはアーキトレンドZEROという建築用のCADを使用しています。

これを現在主流であるアルミ樹脂サッシLow-Eガラス、熱貫流率2.33W/(m²・K)に変更してみます。アーキトレンドZEROには断熱材やサッシを変えて断熱性能をシミュレートする機能がありますので、今回はその機能を使用して変更パターンを作っています。

ZEH住宅断熱計算表2

計算結果はUA値0.64W/(㎡・K)。ZEH住宅に求められる性能である0.60W/(㎡・K)に近づいてきました。

ただ、まだZEH住宅に求められる数値であるUA値0.60W/(㎡・K)には届きませんから、今度は壁の断熱性能を上げてみます。
壁の断熱材をグラスウール10Kの100㎜から、グラスウール16Kの105㎜にします。断熱材は下記の組み合わせになります。

断熱箇所 断熱材料 断熱厚さ(㎜) 熱抵抗値(m²・K/W) 熱貫流率(W/m²・K)
グラスウール16K 105 2.8 0.40
天井 グラスウール10K 200 4.0 0.34
グラスウール16K 80 2.2 0.45

計算結果はこうなりました。

ZEH住宅断熱計算表2

これで断熱性能はUA値0.59W/(㎡・K)になりましたので、ZEH住宅ラインをクリアしました。

この説明でどのくらい伝わるのかはわかりませんが、断熱性能の観点だけからすると、実はZEH住宅をつくるのはそれほど難しいことではなかったりします。ZEH住宅のような高断熱住宅をつくれる我が社はスゴイ!みたいな住宅チラシをよく散見しますが、ちょっと宣伝過剰かなあって気がしないでもありません。

ZEH住宅の肝というか厄介というか問題というか、そういうのは実は断熱性能よりも、この次のステップに出てくる一次エネルギー消費量計算の方だったりします。

一次エネルギー消費量計算

(水戸市近辺で)ZEH住宅として認められるには、下記の4つの項目をすべて満たす必要があります。

1.強化外皮基準 UA値 4~7地域:0.6[W/㎡K]相当以下
2.再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費削減
3.再生可能エネルギーを導入(容量不問)
4.再生可能エネルギーを加えて、基準一次エネルギー消費量から100%以上の一次エネルギー消費量削減

1のUA値わかるとしても、2~4はなんのこっちゃという感じですよね。
これらの項目は一次エネルギー計算をすることによって、確認していくことになります。一次エネルギーはエネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)というサイトに数値を入力して計算します。

エネルギー消費性能計算プログラム(住宅版) Ver 2.5.4
https://house.app.lowenergy.jp/

数値を入力して項目を選択していけば、サイト側で自動的に計算をしてくれます。
というか、このサイト以外での計算は認められません。どのメーカーや工務店で建てようがすべて共通です。

ここからは例として、前回のブログでつくった住宅を使用して説明をしていきます。断熱性能等の計算をした結果の数値がこちらになります。
ZEH住宅計算ZEH住宅計算2

基本情報・外皮

主たる居室 23.19m²
その他の居室 43.89m²
合計 107.65m²
地域の区分 5地域
年間日射地域区分 A3
外皮面積 280.23m²
UA値 0.59W/(m²・K)
ηAH値 2.2
ηAC値 2.3

まずはこれらの数値を最初の1ページ目、2ページ目に入力します。
主たる居室はLDK、その他の居室は寝室等を指します。
地域の区分は、その地方の寒暖を表します。数値が小さいほど寒い地域となります。
北海道が1,沖縄が8です。茨城だと主要な地域が5、東京ならたいていの地域が6になります。
外皮面積は建物全体の床・壁・天井を足した数値となります。
η(イータと呼びます)ACは夏場の日射取得率、低いほど日光が入らないということなので、断熱に有利になります。
ηAHは冬場の日射取得率、こちらは熱を取り込むわけですから高い方が有利になりますが、ηACほどは数値的な影響がありません。

通風の利用、蓄熱の利用、床下の利用、これらは一般的なZEH住宅の場合、どれも利用しないを選択します。

暖房・冷房

3ページ目・4ページ目のこちらは、使用する暖房冷房設備を設定する項目です。
たいていの方はルームエアコンディショナー、つまりはエアコンを選択する方が多いかと思います。
エアコンを選ぶと、今度は評価方法の選択という項目があります。こちらは、エネルギー消費効率の区分を入力する、を選択します。すると、エネルギー消費効率の区分という項目がでます。

エネルギー消費効率の区分とはなにかといいますと、省エネエアコンの性能を表します。
(い)は高性能省エネタイプ・各社のフラグシップエアコンが該当します。
(ろ)・(は)は普及タイプのエアコンとなります。

例えばダイキンのエアコンだとこんな感じですね。

ダイキン ルームエアコン 性能値一覧表
http://www.daikinaircon.com/catalog/sumai_horeiseido/pdf/primary-ra-2018.pdf

ZEH住宅の場合、BELS認証というのを取得する必要があるのですが、こちらの添付書類にはエアコンの型番と省エネ性能区分をつけなきゃいけないんですね。
つまり、ZEH住宅を建てる場合、建てる前につけるエアコンを決めておけないといけません。年度が変わって型番が変わったくらいであれば書類の差し替えで済みますが、引き渡し直前に予算がないからやっぱり安いエアコンにしよう、なんてことは難しくなります。
ZEH住宅の場合、最初から各メーカーのフラグシップモデルのエアコンを購入する費用をみておく必要があります。

換気・熱交換

こちらでは換気のタイプを選択します。
全館ダクトの熱交換器タイプであれば、ダクト式第一種換気設備
普通の換気タイプであれば、壁付け式第二種換気設備または壁付け式第三種換気設備
一般的にはこの二つのどちらかであることが多いかと思います。
熱交換器を使う場合、使用するメーカーと型番を確定させて、カタログの数値を使用します。

給湯・照明

この項目では建築予定の住居に設置する設備機器と照明機器を選択します。
普通の住宅であれば浴槽は必ずありますので、最初のは給湯設備がある、を選択します。
次の項目ですが、給湯機器は様々な種類があるので、項目もたくさんあります。
一番使われることが多いエコキュートの場合、給湯専用型→電気ヒートポンプ給湯器(CO2冷媒)を選択します。

評価方法の選択では、エコキュートの場合、JIS効率を入力する、を選択肢し、設置するエコキュートのJIS効率の数値を入力します。
JIS効率はエコキュートのメーカーカタログ等に載っていますので、それをそのまま入れるだけです。

例えばパナソニックの製品であれば、こんな感じで型番ごとにJIS数値が書いてあります。
http://sumai.panasonic.jp/hp/topimg/eco_lineup.pdf

ふろ機能の種類は、現在の住宅ではふろ給湯機に追焚き機能は標準でついていますので、そちらを選びます。

配管方式ですが、一般的な住宅であれば、ヘッダー方式配管径13A以下が標準です。

水栓の項目ですが、こちらはメーカーでZEH住宅対応品を謳っているものであれば、その他の水栓とし、細部の項目のそれぞれの機能を採用する、にします。対応品を設置しないのであれば、2バルブ水栓(ごく普通の水とお湯を選ぶ水栓)とします。高断熱浴槽も、メーカー側で対応品であるかそうでないかを教えてもらえるはずです。

この項目は住宅に必須である、キッチン・ユニットバス・洗面化粧台に該当します。
ZEH住宅を建てようとする場合、設計の段階でキッチンに付ける水洗器具・ユニットバスにつけるシャワーヘッド・洗面化粧台に使用する水洗器具が確定していないといけない、ということになります。キッチン・ユニットバス・洗面化粧台、全部BELS申請の添付書類になりますので、基本的には後からの変更はきかなくなります。

照明の項目ですが、今の照明器具はLEDが主流ですので、レトロな家を作るので白熱電球を使用したい、なんてことがなければ、すべての機器をLEDとします。
調光に関しては、シーリングライトであれば、今のシーリングライトは調光機能がありますので、採用するを選択します。
人感センサーは、玄関やトイレに人感センサーを設置する場合、採用するを選びます。

太陽光・太陽熱・コージェネ

ZEH住宅の場合、太陽光パネルの設置は義務のようなものです。
再生可能エネルギーというのが、実質太陽光発電を意味するからです。
太陽光の項目は、メーカーからきた資料の数値をそのまま記入する形になります。
なお、メーカー側でも太陽光発電の試算を出すかと思いますが、その数値はZEH住宅の計算には採用されません。使用されるのはシステム容量だけです。
ここでは仮の数値として、システム容量5KW・真南向き・屋根勾配30度としておきます。

太陽熱・コージェネを採用する場合は、太陽光と同じくメーカーが用意した資料に基づいて記入していきます。

すべての項目を選択し終えた後、サイトの右上にある計算をクリックすると、サイト側で自動的に計算がされます。計算が終わると、その右にある出力がクリックできるようになるので、そちらをクリックします。
すると、出力する様式を選択してください、と出るので、建築物エネルギー消費性能基準、のH28年4月以降のPDF出力をクリックします。
クリックすると、以下のような画面のPDFが出てきますので、保存します。

次に、こちらのサイトから、ZEH・ゼロエネ相当一次エネルギー消費量計算シートという、エクセルファイルをダウンロードしてください。
ダウンロードしたエクセルファイルにPDF出力された計算結果を入力していくと、ZEH住宅に該当しているかどうかがわかります。
ZEH住宅計算4
こんな感じですね。
これで、この住宅がZEH住宅に該当していることがわかりました。

ZEH住宅にたいする個人的な感想

1.強化外皮基準 UA値 4~7地域:0.6[W/㎡K]相当以下
2.再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費削減
3.再生可能エネルギーを導入(容量不問)
4.再生可能エネルギーを加えて、基準一次エネルギー消費量から100%以上の一次エネルギー消費量削減

上記がZEH住宅が備えるべき要件ですが、見ての通り、ZEH住宅というものが断熱性能よりは設備的なものに偏っているのがわかります。
一般の人が高性能住宅として思い浮かべるであろう断熱性能は1番だけで、2~4番は設備の話ですからね。というか、ぶっちゃけZEH住宅=太陽光パネルが載っかっている住宅、という認識でも問題ありません。
性能面でギリギリでも設備的にそれほどでもなくても、大容量の太陽光パネルを載せてしまえばなんとかなってしまうので。
政府はZEHビルダー登録制度という枠組みで工務店の仕分けをしたいようですが、太陽光パネルを載せればなんとかなるようなもので分けられても、って感じがします。

さて、なんでこんなにZEH住宅の名前が取り沙汰されているかというと、政府がZEH住宅を2020年には標準住宅に、2030年にはZEH住宅を義務化する、というロードマップを指針として出しているからです。
「今後ZEHを普及させるためには、創エネルギーの制約がある中でもZ EHが達成できるような更なる高断熱・省エネ化のほか、低価格化、消費 者への周知・広報等が不可欠である。これらの要素を踏まえつつ、関係業 界と十分に意見交換を行った上で、ZEHに関する 2020 年目標、2030 年 目標の実現に向け、ロードマップの策定について引き続き上述のZEHロ ードマップ検討委員会にて検討を行う。その際、2020 年に大手ハウスメー 2 カー・工務店等が新設する住宅の過半数がZEHとなることを目指し、施 策を検討する。」
ZEHロードマップ検討委員会とりまとめ(PDF形式) より引用

しかし、義務化ということは、買う側の一般消費者に高額な設備を強制的に購入させるということです。これは必然的に住宅の高額化に繋がり、資金的に余裕のない人は一戸建ての住宅を持てなくなるということと同義です。
自然エネルギーの普及は21世紀の日本にとって大切なテーマだとは思いますが、現時点での太陽光発電は自己発電自己消費というシステムではなく、電力会社への売電による収入がメインとなっていて、このままでは株を買うのと同じく投資のカテゴリーです。
2030年までに蓄電池が安く普及して一般家庭に置いてあるような時代になっていればいいのですが、現時点では電気自動車の普及も含めて、どういう状況であるかは未だ不透明です。
自宅で発電したものを自宅ですべて使えるようになってこその自然エネルギーによる住宅だと思うので、日中に太陽光パネルで発電した電力の余力が災害時のバックアップとしてしか使い道がない現時点では、ZEH住宅を無理に勧める気は個人的にはありません。

もっとも、補助金貰えるなら別ですけど。
国がくれるというものを拒否する理由はないですし。
ちなみに弊社はZEHビルター登録制度による補助金は使っていませんが(2020年に施工棟数の半分をZEH住宅なんて絶対無理だと思ってたので)、地域グリーン化事業というもの使って、ZEH住宅の補助金を申請しています。こちらは中小企業向けで大企業が使えないので、弊社のような小回りのきく会社向きなのです。ちょっと気になるという方はお問い合わせください。

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